近年注目されている再生医療とは、ケガや病気で失った機能を従来の医療ではなく、加工した細胞や組織・血液等を用いてヒトにもともと備わっている修復能力を増大させて治療する方法です。
整形外科分野では、再生医療は組織や血液のような「体細胞」を使用した治療法や、体細胞に変化する前の「幹細胞」を用いた方法が進んできました。体細胞治療では、血液を用いた例として患者さんご自身の血液を濃縮加工して修復能力が高くなった血小板を作製し患部に注入することで、変形性関節症などの関節痛や炎症を抑えたり、スポーツ選手などに起こりやすい筋肉や靭帯損傷の改善が行われています。また幹細胞治療では間葉系幹細胞等を用いて骨折や関節軟骨を再生させる試みが始まっています。
再生医療の整形外科領域における治療効果につきましては国内の歴史が浅いこともあってデータに乏しいため個人差があるものとお考え下さい。それでも「従来の治療方法では改善されない」、「手術に躊躇している」等でお悩みの方にとっては保存療法と手術療法の中間的位置付けとして重要な選択肢のひとつになると思われます。
〇再生医療のイメージ図(膝関節の場合)
再生医療の詳しい情報は下記リンク「関節ライフ」のWEBサイトでご確認下さい。
ご自身の血液を採取後、濃縮して特定の成分のみを抽出し治療部位に注入する方法です。この 成分を多血小板血漿(Platelet Rich Plasma)略して PRP といいます。この PRP を作製するために専用の医療器具を使用します。(この器具をキットと呼び、当院で使用するのは「APS キット」 及び「GPSVキット」で、部位によって使い分けます。厚生労働省に承認されており高品質なPRPが 作製でき、かつ安全性が高いのですが、その分価格も高額になります)
作成されたPRPの血小板濃度は通常の約6〜9倍、白血球濃度が通常の約5倍となります。(このPRPは白血球が多く含まれることから一般のPRPと区別して「LR-PRP」と呼びます。特徴や効果の比較は表3を参照ください)
このPRPから放出される成長因子に組織を修復・活性化させる働きがあるため、痛みや炎症を抑制する効果が期待できます。
※第2種、第3種の違いについては表1でご確認ください
〜 PRPを再度加工することで、より高い治療効果が期待できます〜
次世代PRPと呼ばれるAPS療法は、PRPより高い治療効果をお望みの方や効果期間を延ばしたい方等に推奨いたします。上記で作製した「LR-PRP」に更に遠心分離をかけ、脱水・濃縮することで炎症を抑える良質なたんぱくが豊富な溶液となり、炎症バランスを改善し痛みを軽減させ、軟骨の変性や破壊を抑えようとする治療法です。
既にご説明したとおりPRP療法(APS療法を含む)は、治療部位が「関節」と「筋肉・腱・靭帯」の2種類に分類されています。この項では治療部位別に内容を記載します。
表2 PRP(APS)療法の対象部位および疾患
変形性関節症は、関節内の骨の末端部にある軟骨の異常(摩耗や損傷)により、痛みや腫れ、炎症がおこります。病気が進行すると関節内のいろいろな組織に影響して関節の変形を引き起こします。PRP療法には、こうした痛みや腫れの軽減や組織の修復を促したり、関節の炎症を抑制したりする効果があります。
関節部位に対するPRP療法、APS療法の違いは、表3に一覧にしてありますのでご参照ください。
表3 関節部位に対する白血球の多いPRP、APS及び白血球の少ないPRPの比較
※1 LR-PRP(leukocyte rich PRP) 高白血球多血小板血漿
※2 LP-PRP(leukocyte poor PRP) 小白血球多血小板血漿
赤枠内は当院で実施しています
海外で2000年頃からサッカー選手やメジャーリーガー、プロゴルファー等のスポーツ選手のケガの治療のために行われるようになりました。その後プロアマ問わずスポーツ選手に対して実施されていますが、日本人メジャーリーガーが受けたことで我が国でも多くの人が知るところとなりました。この治療法はスポーツによるケガのみならず表2に記載の対象疾患の方であれば実施が可能です。
(1)再生医療申込書により受付をします
(2)問診、検査(血液、尿、MRI等の画像)、病歴等を確認します
(3)治療部位の治療前評価をします
(4)同意書を発行しますのでご記入のうえ治療当日にご持参下さい
(5)治療日を決定します
2. 治療当日
治療日の標準的な所要時間は、約1時間30分です
3. 治療後1カ月、3カ月、6カ月のフォローアップ
問診、経過時点の評価等を行います。
※治療部位の改善状況の把握並びに厚生労働省への定期報告が必要となりますのでご協力をお願い致します。